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2015.08.25 政策研究

地域のつながりが命を守る ~自治体が主役 自殺対策最前線~

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自治体の先駆的な取組

 実際に、関係機関が連携することで自殺に追い込まれる人を減らした地域の取組があるので紹介したい。
 東京都足立区は、6年前から自殺総合対策に取り組み、ターゲット層については40%、地域全体でも25%、自殺者数を減少させた。自殺対策の先進地として知られる秋田県でも、総合的な対策の積み重ねで、過去最多だった年から40%も減らした。15年以上前になるが、新潟県の旧松之山町は全国平均の9倍だった自殺率を4分の1以下に減少させた。それぞれ、人口規模も年代構成も異なる自治体だが、対策の進め方は驚くほど共通している。
 第1に、地域の「自殺のハイリスク群」を明らかにするため、自殺の地域特性を分析している点だ。内閣府が公表している自殺統計や、場合によっては独自の自殺実態調査を行い、地域でどういった職業や年代、性別の人が自殺で多く亡くなっているのかをまず見極める。そうした「地域診断」の結果、足立区では中高年の無職者、旧松之山町では高齢女性が多く亡くなっていることが分かった。
 第2の共通点は、そうやって浮き彫りになった「ハイリスク群」に対して、関係機関が連携し、総合的な支援を実施していることだ。無職者であれば、「失業・生活苦・多重債務・うつ病」といったように、抱えがちな問題がすでに分かっているので、それらの問題に対応するため、弁護士と保健師、ハローワークや福祉事務所が連携して「総合的な相談会」等を共同で実施し、支援に当たる。あるいは高齢女性は、役割喪失感や家族との人間関係、うつ病といった問題を抱えがちだということが分かっているため、地域の診療所や精神科医、保健所が連携して「うつの早期発見・早期治療」に当たり、加えて「家族への啓発」等を行う。
 そして第3の共通点は、自殺をタブー視することなく、地域への啓発活動を積極的に展開していることである。足立区では区内の全図書館で自殺対策のパネル展示を行ったり、コミュニティバスに相談会のポスターを掲示したり、全世帯に配布する区民便りで自殺対策の特集を組んだりしている。秋田県でも、県民運動として民官学が協力して街頭活動を行うなど啓発に力を入れている。
 そのようにして、これまで「点」としてバラバラだった関係機関や支援策を、当事者のニーズに応じる形でつなげていくことだ。「点」と「点」とをつなぎ「線」にし、そうした当事者本位の連携である「線」をたくさん紡いでいくことで、「面」にしていく。その「面」というのは、すなわち社会のセーフティネットであり、「面」に加わる「点」が多ければ多いほどセーフティネットの網は大きくなる。また「点」と「点」の連携が深まれば深まるほど、セーフティネットの網の目が細かくなっていく。
 繰り返しになるが、「自殺」といっても、多くは死を強いられているのであり、自ら積極的に死を選んでいるわけではない。「死にたい」と思い詰めている人の多くは、実は「生きたい」とも思っていて、必要な支援が得られれば多くは生きる道を選ぶ。自殺対策に積極的に取り組む地域では、結果的に、自殺が減少するわけである。

自殺対策は地域の時代へ

 全国各地で行われている先進的な取組を互いに学び合うため、平成23年7月には自殺対策に取り組む自治体のネットワークも設立された。「自殺のない社会づくり市区町村会」といって、現在およそ300の市区町村が加盟している。
 ▶自殺のない社会づくり市区町村会のHP http://localgov.lifelink.or.jp/
 ライフリンクが事務局を担っているのだが、毎年ブロック研修会を開くなどして、加盟自治体が最新最善の自殺対策を実施できるように支援している。内閣府が公表している地域の自殺統計を表に落し込む作業も、加盟自治体に対しては随時、無償で行っている。
 また、冒頭でも触れたが、今後は多くの自治体が策定することになるだろう「自殺対策行動計画」についても、市区町村会の加盟自治体が策定する際は、ライフリンクが積極的に技術支援を行っている。これまでも、東京都港区や日野市、京都府京丹後市などに対して支援した。
 ▶東京都港区「自殺対策推進計画」(平成26年9月)
  https://www.city.minato.tokyo.jp/chiikihoken/kenko/kenko/zaitakukanwa/kokoro/sodan/documents/jisatutaisakukeikaku.pdf
 ▶東京都日野市「自殺総合対策基本計画」(平成27年3月)
  http://www.city.hino.lg.jp/index.cfm/196,129333,348,2008,html
 ▶京都府京丹後市「自殺のないまちづくり行動計画」(平成26年3月)
  https://www.city.kyotango.lg.jp/kurashi/kenko/suicideprevention/documents/plan.pdf#search='%E4%BA%AC%E4%B8%B9%E5%BE%8C%E5%B8%82+%E8%87%AA%E6%AE%BA%E5%AF%BE%E7%AD%96'
 さらに今後は、「自殺対策を推進する地方議員の会」の立ち上げも検討している。これまでも議会で質問すべき自殺対策について問合せがあった際は可能な限り個別に対応してきたが、今後は地方議員を支援するネットワークを立ち上げることによって、その機能をより強化したいと考えている。

誰も自殺に追い込まれることのない社会へ

 最後に、私が自殺対策に取り組む上で、いつも心に留め置いている言葉を紹介したい。高校生のときに父親を自殺で亡くした遺児が、あるときぽつりとつぶやいた、こんな言葉だ。
 「私のお父さんは、社会的には年間3万人のうちの1人なのかもしれない。でも私にしてみれば、たった1人の父だった」。
 私たちは「3万人」といった数字にとらわれがちだが、それは「誰かにとっての1分の1の存在」の集まりである。「自殺が増えた、減った」といっても、自殺者の数は、例えば失業者数のように、実際の人数が変動するわけではない。年間ベースで見れば増減があっても、本質的な意味では絶対に減ることがない。一度亡くなった人が生き返ることはないわけで、自殺者の数は増え続けていくしかない。
 また、1人が自殺で亡くなると、4人から5人が遺族になる。つまり毎年10万人を超える人が家族を自殺で亡くしているわけで、推計では現在、日本には家族を自殺で亡くした遺族は300万人を超えるとされている。日本に暮らす約40人に1人が家族を自殺で亡くす時代になっているということだ。
 自殺は様々な社会問題が最も深刻化した末に起きるものである。毎日70人超が自殺で亡くなり続け、自殺による「悲しみの連鎖」がとめどなく広がり続けているこの現実に歯止めをかけること。「誰も自殺に追い込まれることのない社会」の一日も早い実現に向けて、それぞれの地域において対策をさらに強化・加速させなければならない。

清水康之

この記事の著者

清水康之

NPO法人 自殺対策支援センター ライフリンク代表 元NHK報道ディレクター。自死遺児たちの取材をきっかけに、自殺対策の重要性を認識。2004年にNHKを退職し、ライフリンクを設立。10万人署名運動等を通して2006年の「自殺対策基本法」成立に大きく貢献する。自殺対策の「つなぎ役」として日々全国を奔走中。自殺対策全国民間ネットワーク代表。元内閣府参与(自殺対策担当)。内閣府「自殺対策官民連携協働会議」委員。Twitter:@yasushimizu

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