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2018.09.25 政策研究

大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例(下)

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北海学園大学法学部教授 秦 博美

2 条例制定過程

(5)条例案提出
 橋下市長(当時)は、2015年5月22日、議案第183号大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例案を市会に提出した。説明文は「市民等の人権を擁護するとともにヘイトスピーチの抑止を図り、ヘイトスピーチに対処するため本市がとる措置等に関し必要な事項を定めるため、条例を制定する必要があるので、この案を提出する次第である」となっている。

3 条例の概要

(1)条例の構成
 提案時の条例案は、次のような構成であった。
 第1章 総則(1条─4条)
 第2章 ヘイトスピーチの拡散防止の措置及び認識等の公表(5条─7条)
 第3章 訴訟等の支援(8条─12条)
 第4章 審査会の意見聴取手続の省略(13条)
 第5章 大阪市ヘイトスピーチ審査会(14条─17条)
 第6章 雑則(18条・19条)
 市会(財政総務委員会)での審議状況を踏まえ、2016年1月15日付け大阪市長(吉村洋文)から大阪市会議長(東貴之)宛ての「議案第183号大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例案の一部修正の承諾を求めることについて」が提出された。主な内容は、章名と第3章及び第4章の削除、附則3項の追加である。
 その間の経緯を新聞報道は次のように伝えている。
 「大阪維新の会代表だった橋下徹前市長が『ヘイトスピーチがない大阪にする』と昨年5月に提案した当初の条例案は、審査会の委員を市長が選任し、ヘイトスピーチを受けた側に訴訟費用を貸与する制度も盛り込んでいた。全会派が制定趣旨には賛同したが、自民や公明から、表現の自由にも絡む問題で一自治体が国に先行することや、訴訟の一方の当事者だけを税金で支援する点への懸念が出て、継続審議となっていた。/昨年12月の吉村市長の就任後、維新が他会派に(1)審査会委員を議会同意人事とする(2)訴訟費用貸与制度を撤回(3)国が法整備をした際には条例を見直す─との議員修正案を提示。自公は修正内容には賛同しつつ、行政の責任で修正することが必要と求めた。『議会との会話と協調』を掲げる吉村市長が、議会側の求めに全面的に応じた形だ」
 「大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例(案)」が2016年1月15日の大阪市会本会議において賛成多数で可決されたが、5会派のうち唯一、自民党会派は反対をしている。ヘイトスピーチを許さないという条例の目指すところは賛同するものの、①市として、市民に対して条例制定の目的や趣旨を理解する時間を十分確保する必要があったこと、②国や大阪府警をはじめとする関係機関と調整することがまだまだ不十分であることを反対の理由に挙げている
(2)条例の制度設計
 条例は、本則12条、附則3項からなっている(図「大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例の概要」(以下「条例の概要図」という)参照)。
ア ヘイトスピーチの定義
 条例審議中に、国会で法律制定の動きがあり、2016年5年24日に全会一致で、本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律(以下「解消法」という)が成立した。
 解消法2条は、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」を、「専ら本邦の域外にある国若しくは地域の出身である者又はその子孫であって適法に居住するもの(以下この条において「本邦外出身者」という。)に対する差別的意識を助長し又は誘発する目的で公然とその生命、身体、自由、名誉若しくは財産に危害を加える旨を告知し又は本邦外出身者を著しく侮蔑するなど、本邦の域外にある国又は地域の出身であることを理由として、本邦外出身者を地域社会から排除することを煽動する不当な差別的言動」と定義している
 国会審議の中で、解消法の対象を「本邦外出身者」への不当な差別的言動に限定する理由について、「現在も問題となっているヘイトスピーチ自身は、いわゆる人種差別一般のように人種や人の肌とかいうのではなくて、特定の民族、まさに在日韓国・朝鮮人の方がターゲットになっている」のであるから「そういう立法事実を踏まえて、この法律に対して対象者が不必要に拡大しないように」、対象を限定していると発議者は述べている
 他方、条例は、日本人へのヘイトスピーチも対象にしている。「大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例Q&A」(以下「Q&A」という)の7.は、「日本人へのヘイトスピーチは、対象にならないのか」との問いに対し、「『人種若しくは民族に係る特定の属性を有する個人又は当該個人により構成される集団』へのヘイトスピーチを対象としており、すなわち、どの人種若しくは民族であるかに関わらず対象としています。よって、日本人へのヘイトスピーチも対象になります」と答えている。
イ 委員の選任に当たっての市会同意
 2015年10月6日の財政総務委員会の質問で、「ヘイトスピーチに該当するかどうかを審査するヘイトスピーチ審査会の中立性・公平性を担保することが重要なので、委員の人選が恣意的にならないようチェックする必要がある」ことを指摘した上で、すでに市では、「人権施策推進審議会や公正職務審査委員会のように、委員の選任に当たって市会同意を得ることとされている事例」もあるので、「ヘイトスピーチ審査会でも同様の取り扱いとすることについて、十分に検討に値するものだ」と要請している
 条例提案後に、議会の指摘のとおり修正案が提出された。

図 大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例の概要図 大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例の概要

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この記事の著者

秦博美(北海学園大学法学部教授)

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